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ブラックバードミュージック

Author:ブラックバードミュージック
ブラックバードミュージックは、等身大のアイルランド音楽の魅力を本国直送で日本へ紹介することを目的としたプロジェクトです。
名古屋のフィドル奏者小松 大と、在アイルランドの望月えりかが共同で運営しています。

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アイルランド音楽の何が好きなのか?

2017.07.27 09:04|アイルランド音楽を学ぶ
美奈子さんは、日本に帰るたびにパット&オーインのコンサートやワークショップに来てくれる女性です。
聞くところではわずか数年前にアイルランド音楽を始められたばかりとのこと。お会いするたびに上手になっていて毎回驚かされます。

そんな美奈子さんが、演奏するパットとオーインを指さして「エリカさん、私ね、この音楽がやりたいんですよ。こういう風に演奏できるようになりたいんです」と力強く言います。
あまりにまっすぐで素直なコメントに思わず笑みがこぼれその時は聞き流してしまいましたが、アイルランドに帰国してから美奈子さんのことを思い出しては「すごいなあ」と感心するのです。

自分の好きなものを知っているということ。自分の目指したい演奏が見えているということ。
これはすごいことだなあと思うのです。

アイルランド音楽という海は広すぎます。右も左も分からない手探りの状態では前進が難しい。

DSCF7505.jpg

私はアイルランド音楽を始めて最初の数年間は、自分が何が好きなのか全く分からずにいました。
友人や音楽仲間が薦めてくれるままにレコーディングを聴いたり、さまざまなグループやミュージシャンのCDを片っ端から聴いていました。ミュージシャンたちのバックグラウンドも何も知らぬまま、音源を音源として聴いていました。まさにつまみ食いの状態です。いつかピンと来るアイルランド音楽に巡り合えるはずと信じてアンテナは張っていましたが、漠然とした「好き」はたくさんあってもその「好き」には共通項がなく、あったとしてもつまみ食いをしているだけでは見えるはずもありません。

それに比べて、美奈子さんは永遠にさまよいかねないこの海の中、辿り着きたい岸が見えている。
これはすごいことだなあと思うのです。

好きなものが分かってくれば、これが糸口になってアイルランド音楽の幅広い世界も見えてくる。
今まで頭の中で点在していただけのミュージシャンたち、情報としてしか得られていなかった異なる地域や歴史の流れといったものが、少しずつ1本の糸でつながっていきます。

アイルランド音楽が好きなのではなく、アイルランド音楽の何が好きなのか?という問いを改めて考えさせてくれた、新鮮な日本滞在でした。

DSCF7486.jpg

望月えりか Erika Moc O'C@Twitter

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テーマ:アイルランド音楽
ジャンル:音楽

ABC譜をおぼえよう

2015.05.15 22:41|アイルランド音楽を学ぶ
前回の記事で、アイルランドにおける伝統音楽シーンでは五線譜よりもABC譜がはるかに普及していることを書きました。

アイルランド国内に限らず、近年では素早くデジタル化できるABC譜による曲の伝達が、欧米のネットユーザーを中心にかなり普及していると言われます。特に単音で構成される民族音楽を中心に利用されることが多いようです。

曲を譜に起こすという意味では、五線譜、ABC譜、はたまた文字譜、数字譜、ドレミ譜といったさまざまな記譜法がありますが、膨大な曲を抱えるアイルランド音楽においてABC譜は使いやすく、理に適っているのかもしれません。

ABC譜 (2)

さて、このABC譜。
五線譜だけに慣れた人にとっては最初当惑するかもしれません。
私自身も幼少の頃からピアノを習っていたので、音楽といえば五線譜で「ドレミ」として覚えていました。日本でアイルランド音楽をはじめた時も曲はすべて五線譜。そもそもABC譜というものすら、アイルランドに来るまでは知りませんでした。
今でも五線譜とABC譜両方の選択肢があると、つい五線譜を選びがちです。五線譜のほうが私にとってはすんなり頭に入ってくるのと、曲全体の流れを視覚で確認できる安心感があるのです。

しかしながら、アイルランドで例えば友人に「その曲いいね!譜に起こしてくれない?」と頼まれた時など、五線譜で渡そうものなら渋い顔をされて「・・五線譜は読めない(苦手だ)から、できればABCで書いてくれない?」と言われることがよくあります。
また、アイルランドでは、何よりレッスンなどの場では選択の容赦なく、ほぼ100%ABC譜が配られるのではないでしょうか。

アイルランドに旅行に来て楽器のワークショップを受ける際に、突然なじみのないABC譜を渡され、ほかの受講者たちがスラスラと読める中、大苦戦を強いられる方も少なくありません。こうした光景を再三見ていると、アイルランドで音楽を学ぶ際にはABC譜に慣れておくことが大事なのでは、と思えてきます。

しかし、これがなかなか難しいのです。
ドレミを頭の中でABCに変換していく作業は、最初スムーズに行くものではありません。特に、曲を「ミララソラー」という具合にドレミで歌うように覚えてしまっていると、それがかえってあだになり、さらに難解です。
ABC表記になじみのない方のために、ご説明しますと、

CDEFGABC=ドレミファソラシド

つまりCはド、Eはミ、Gはソということになります。

またABC譜の細かい書き方は人それぞれです。例えばオクターブ高い音を小文字で表記する人、大文字のままで文字の上に付点や罫線を記す人、小節と小節の間にスペースを入れる人と入れない人など、極めて個性的です。
記譜法のルールがあいまいなのでその人が書きたいように書いており、分かりにくい部分があれば口頭で説明する、というようなスタイルです。

ABC譜は不完全でよい。表記にばらつきはあっても、曲の骨格が分かればよい。
こんなところにも、アイルランド音楽の譜に頼らない、譜との距離感が感じられて面白いなと思います。

フィークルキャンプ2014 2日目 (7)
[受講者の意向に応じて五線譜に対応できるミュージシャンもいます]

ABC譜をおぼえておくとよい、もう一つの理由があります。
アイルランドでは、ワークショップなどで「いいですか?この曲はB-B BABからはじまりますよ」、「ここのCはナチュラルじゃなくてシャープです」という風に、音はすべてABCで呼ばれていることです。
つまり、五線譜はおろか大半のアイルランド人のミュージシャンたちの頭の中ではドレミはまったく使われず、ABC譜そのままに、音はすべてABCで理解されているのです。

ABCで音楽とかかわっていると、曲のキーも見極めやすくなるようです。
セットを作る際などに、その曲の調(キー)を知っていることは大事です。「このキーの曲のあとにAマイナーのキーの曲をつけるといいな」という風に、曲の調を理解する手助けになります。

五線譜はアイルランド音楽らしくない。アイルランド音楽には五線譜は使われるべきではない。
そんな極端な話はありません。
中には「五線譜は読めた方が良い」と明言するミュージシャンや、五線譜の知識がないことにコンプレックスを持つ人すらいます。

とは言え、ABC譜は一度使い始めると便利なものです。
どこかで聴き覚えた曲の冒頭をABCでメモしておく、音楽仲間にメールで簡単に曲を渡すこともできます。
皆さんもぜひ試してみてください。


望月えりか

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ABC譜と五線譜

2015.05.08 19:41|アイルランド音楽を学ぶ
去年の夏に初めて開催された「Feakle Irish Music Camp」では、合わせて8人のアイルランド人講師たちにワークショップを担当してもらいました。

フィドル、フルート、コンサーティーナの各ワークショップでは、楽譜を全く使わずに耳で覚えて課題曲を教えるスタイルの講師と、楽譜を用意して参加者の皆さんに配布した講師がいました。
どちらのケースもアイルランドにおけるレッスンとしては当たり前の風景で、講師が生徒たちに何を求めているか、どんな風に音楽と向き合ってほしいかといったスタンスによって、教え方のスタイルも違ってくるようです。
さて、このうち楽譜を事前に用意してくれた講師たちの「楽譜」そのものについて、今日は簡単にお話をしたいと思います。

既に見慣れている方もいらっしゃるかもしれませんが、アイルランドで配られる楽譜はいわゆる「おたまじゃくしの並ぶ五線譜」ではありません。
こちらです。

ABC譜 (3)

「ABC譜」と呼ばれるものです。
ABC譜はアイルランド音楽において最も一般的な記譜法で、アイルランドでワークショップやレッスンを受ける際にもらうのも、このABC譜である場合が多いです。

ABC譜は複雑な知識を必要とせず、分かりやすく簡単に記すことができるので、アイルランド音楽を譜に起こすにはぴったりなのです。

「でも、アイルランド音楽の楽譜集のほとんどは五線譜で書かれています。それはなぜ?」と思われる方も多いかもしれません。
実際にその通りで、数あるアイルランド音楽の曲集は五線譜で表されています。

楽譜集

この背景には、しっかりした出版物は五線譜に起こすものである、というフォーマルな考え方があるのではと推測されます。ただこのことがイコール、アイルランドの人々の間では五線譜が当たり前、ということではないところが私たちを混乱させるのかもしれません。

むしろ、アイルランド国内の伝統音楽において、五線譜は驚くほど普及していません。
音楽を習う子どもたちや初心者に限らず、アイルランド音楽のシーンでは名の通った音楽家たちでも「五線譜は読めない、書けない」、「苦手」という人々がおり、しかもそれはさして驚くべき事実でもありません。
裏を返せば、五線譜が読めなくとも問題ない、さして障害にはならない、ということがアイルランド音楽の特徴であるとも言えます。
ABC譜の読めない人というのはさすがにいないと思いますが、楽譜の読める読めないがさして重要でないというところからも、アイルランド音楽が本来、譜には頼らない音楽である、耳で聴き、体で習得し、人から人へ伝承されてきた音楽であることが窺えます。

では、これら五線譜で書かれた曲集は一体誰が使っているのでしょう。
アイルランド人で五線譜をスラスラ読める人は少なく、こうした曲集をフルに活用しているのはクラシック音楽の素養のある多くの外国人と一部のアイルランド人・・ということになってきます。
「オニールズの曲集は持ってるけど、曲名を調べたい時や曲の始まりの部分が思い出せない時などにチラッと使うだけ」という人も多いです。

話が少々それますが、そもそも誰かによって編集されたこれらの曲集から曲を無差別に選んで練習する、という曲の覚え方をしないのです。

それよりも、「ミルタウンのウィーリークランシーのフィドルクラスで、2008年にジェイムス・ケリーから習った曲」、「よく行くセッションで○○さんがよく弾いている曲」というように、教わった場所や人物の思い出もすべてひっくるめたものを曲として保存し、丁寧に練習して自分のものにしていくほうがずっと奥深く、一曲一曲に対して愛着がわくものです。
実際、こうして集めた手書きによるABC譜を専用のフォルダーに入れて、大切に弾いている人が多いように思います。

以上、アイルランドの伝統音楽におけるABC譜と五線譜の話でした。
次回はこのABC譜について、更に詳しく書いていきたいと思います。


望月えりか

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生演奏をできるだけたくさん聴く

2014.09.16 07:44|アイルランド音楽を学ぶ
ピアニストの中村紘子さんが、とある新聞記事の中でこう述べていました。

「この音楽で何を表現したいの?」
「最近は音大生に聴いてほしい音楽を薦めると、「ユーチューブで聴きました」で済ませちゃう。それは知識にしかならない。生演奏を聴かないと、表現の本質はわからないですよ」

クラシック音楽であれ、アイルランド音楽であれ、これは共通認識ではないかと思います。

最近は前述のようにインターネットを介して動画などを気軽に見ることができ、一方でコンサートへ足を運ぶ人々が減っていると聞きます。
デジタル化が急速に進む今の時代に、コンサートへ行くことが何やら非常にアナログ的で面倒だ、お金も時間ももったいない、と感じる方が多くいらっしゃるのかもしれません。

しかし、知識にしかならないデジタルを通して音楽を聴くという行為と、生でその音楽家の演奏を聴くこととは、そもそも比較のしようすらありません。

音楽は、本来ならイヤホンから入ってくる音源を耳で聴くものではなかったはずです。
演奏家と聴き手が、同じ空間を共有しながら紡ぎ出されるのが本来の音楽の姿であり、アイルランド音楽の場合はこの両者のつながりが特に強い傾向にあります。

アイルランドで暮らす人々が、ごく自然に持っているリズム感やグルーヴ。旋律の美しさやイントネーション。
アイルランドでは、楽器をはじめて間もない子どもたちでさえ、アイルランド音楽特有のノリを既に身につけていたりします。

「一体どうやったら、自分もああいう風に弾けるようになるのだろう」
「やはり外国人には無理なんだろうか。アイルランド人だからできる音楽なのだろうか」

このような疑問は、日本人だけでなく多くの外国人から漏れ聞きます。
しかし、当然のことながら「アイルランド音楽はアイルランド人にしかできない。アイルランド人の血が入っていなければ無理である」ということではないはずです。

ではアイルランドに暮らす人々と外国人との決定的な違いは何か。
これはひとえに「生の演奏をたくさん聴いているから」
「身近なところでいい音楽家たちの演奏を体で覚え、習得しているから」ではないでしょうか。

何度も繰り返すようで恐縮ですが、やはり「音楽は体験である」のです。

生で見て聴くという体験は、相当のインパクトを私たちに与えてくれます。
これに代わる体験は、何をどんな風に駆使しても、決して得られるものではありません。

自らアイルランド音楽を演奏される方にとって、アイルランドの音楽家たちの演奏を目の前で聴くという体験は、何にも代え難い貴重な機会です。

生演奏の価値を知っている演奏家は、確実に伸びます。
生演奏の価値を知らない人は、5年経っても10年経っても、ほとんど上達の見られないケースがあると聞きます。

生演奏をできるだけたくさん聴く。
どんな時代の中においても、不変の価値があるはずです。


望月えりか

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お気に入りの音楽家を見つける、聴き込む

2014.07.12 00:45|アイルランド音楽を学ぶ
7月にクレア州のミルタウンマルベイで開催されるウィーリー・クランシーサマースクール。アイルランドで最大の伝統音楽の祭典を目指して集まるアイルランド音楽ファンは、毎年数千人にのぼります。
この時期になると、エニスにあるミュージックショップ、カスティーズ(Custy's)もサマースクールを目指すお客さんで混みあいます。

パットが店番をしていた先週も、「これからミルタウンに行くんです」というお客さんで賑わいました。
その中に、女性二人組の外国人の姿が。
「ミルタウンでフィドルのクラスを受講する」ということで、「おすすめのフィドル奏者のCDがあれば教えてほしい」と頼まれたそうです。

こうした依頼のあるお客さんはカスティーズに多いのですが、パットはこういう時いつも「普段は何を聴いてるの?」、「どんなフィドル奏者が好きなの?」とまずは訊いているようです。

すると、「好きなフィドラーはケヴィン・バーク(Kevin Burke)とアイリーン・アイヴァース(Eileen Ivers)」とのこと。

「アイルランドの音楽のことはあまり知らないようだったから、フランキー・ギャヴィン(Frankie Gavin)のファーストアルバムとブリーダ・ケヴィル(Breda Keville)のアルバムを勧めたら、喜んで買っていってくれたんだよ」

「これで少しでも幅を広げて聴いてくれるんじゃないか」ということでした。

このような著名なフィドル奏者だけをかいつまんで聴いている初期の段階において、アイルランド音楽の全体像をつかむのは難しいものです。
またここでストップしてしまうと、この音楽家がアイルランド音楽の世界でどのように位置づけられているのか、またどのような背景の中でどんな人々とコネクションがある人物なのか、見極めにくいのではないでしょうか。

ケヴィン・バーク
[世界中に根強いファンを持つロンドン出身のケヴィン・バーク]

アイリーン・アイヴァース
[ニューヨーク生まれのアイルランド系アメリカ人、アイリーン・アイヴァース]

日本でパットのワークショップが開かれた時のことです。
参加者の方の一人から「上達するためのコツを教えてほしい」という質問が出ました。

それに対して、パットは「あなたと同じ楽器のミュージシャンで、誰かお気に入りのミュージシャンを一人でもいいから見つけること」と言います。
そして「でも、バンドのコピーやバンドの中で演奏している人のコピーはしない方がいいよ。伴奏などが何も入っていないソロのものが一番いい。CDでも何でもいいから、とにかくそのミュージシャンの演奏に耳を澄ますこと。フィドルの場合だったら、彼がどんなフィンガリングで、弓をどういう風に動かして一つ一つの音を作り出しているのか、その人が演奏する姿を想像しながら聴き込んでみると、アイルランド音楽の心に触れられると思う」

お気に入りの音楽家を一人に絞る必要はなく、中には「好きな音楽家はその時によって移り変わる」という人さえいます。古今を問わず、まずは幅広く聴いてみる。そして「この人はいい」という音楽家が現れれば、その音楽家が影響を受けた音楽家や、かかわりのある音楽家の演奏を聴いてみる。

こんな音楽の聴き方をしていると、そもそもなぜ自分がその音楽家を好きだと思ったのか、その理由もはっきりと見えてくるのかな、と思います。自分の好み、テイストというものは、案外自分自身では把握しきれていない場合もあるのではないでしょうか。
去年の夏にこちらのブログでも記事にした「聴くことの大切さ」。
音楽を聴き込む。とにかく聴き込むことが、アイルランド音楽を学ぶ長い道のりのキーのようです。


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