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ブラックバードミュージック

Author:ブラックバードミュージック
ブラックバードミュージックは、等身大のアイルランド音楽の魅力を本国直送で日本へ紹介することを目的としたプロジェクトです。
名古屋のフィドル奏者小松 大と、在アイルランドの望月えりかが共同で運営しています。

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受け継がれるジャーマンコンサーティーナ

2015.11.19 20:36|コンサーティーナ
エニスにあるミュージックショップ「カスティーズ」には、実に多くの人々が訪れます。地元の人々はもちろんのこと、観光客やディーラー、ミュージシャンや歌い手たちが自らのCDを持参したり、店のスタッフとおしゃべりをするのに立ち寄ることも多いのです。

先日、とある地元の人らしき女性が大きなショッピングバッグに何やら入れて店にやって来ました。

「これ、この前電話で話した例の楽器なんだけど」

ということで、出てきたのがこちら。

ジャーマンコンサーティーナ

コンサーティーナです。
が、通常のものとは少し違う、ドイツ式のコンサーティーナ(ジャーマンコンサーティーナ)です。

アイルランド音楽におけるコンサーティーナの歴史を語りはじめると長くなるので今回は割愛しますが、大ざっぱにお話しますとこのジャーマンコンサーティーナは左右それぞれ10個のボタンしかない、つまり20キーのタイプの楽器です。

19世紀中頃から生産が盛んになり、アイルランドでも1970~80年代まで使われていました。
安上がりで入手しやすかったこともあり、コンサーティーナ奏者の古い白黒写真などを見ているとよく登場します。
30キー、またはそれ以上ある今日のアイルランド音楽シーンで一般的なコンサーティーナに比べ、一回りも二回りも大きなサイズのものが多かったようです。

アングロジャーマンコンサーティーナ2
[ジャーマンコンサーティーナを演奏するラウス州出身のメアリー・アン・キャロラン 1977年]

カスティーズに楽器を持ち込んだ女性は音楽のことには疎いようで「修理に出した方がいいのか、そもそもどれくらいの価値がある楽器なのかしら」とのこと。

「今は2列式でなく3列式が普通で、このスタイルのコンサーティーナはほとんど使われてないんですよ」とのパットの説明に納得した女性、「そうなのね、でもいろいろ教えてもらえてよかったわ。もう家族の中で弾く人はいないけど、私の祖母の世代からずっと家にある楽器だから、母も気になっててね。そういうことなら家で大事に保管しようと思う」とのことでした。

「そうですね、例え楽器としては使えなくても家族にとって歴史のあるものだから、捨てたりはしないで」

今回はコンサーティーナでしたが、アイルランドに暮らしているとその家に代々受け継がれている楽器を目にする機会があります。
特別な家柄でなくとも、ごく普通の一般家庭に眠っているフィドルやコンサーティーナ。中には一向に日の目を見ない楽器も多いことでしょう。
特に時代遅れとなりつつあるこのジャーマンコンサーティーナは、現役として使われなくなってから久しく、もともと高価なものでもないために修理費だけがかさみます。その結果、いつの間にか忘れられ、朽ち果ててしまうケースが多いようです。

例え価値のない楽器だとしても、ここに暮らす人々の家に昔からある楽器の存在は、アイルランド音楽と人々との深い歴史とつながりを感じさせてくれます。


望月えりか

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ティンホイッスルは楽器じゃない?

2015.07.12 07:51|ティンホイッスル
クレア州の州都、エニス(Ennis)にあるカスティーズミュージックショップ(Custy's Music Shop)には、実にさまざまな人々がやってきます。
ある日、店にやって来た女性が「楽器を見せてもらってもいいかしら?」と言うので、店内にあるフィドルやフルート、コンサーティーナ、バンジョー、アコーディオンなどのもろもろを簡単に説明してまわったのだそうです。

するとこの女性、「私ね、1年ほど前からティンホイッスルを吹いてるんだけど、そろそろ”楽器”をはじめようと思って。何がいいかしらねえ」との発言。

アイルランドに暮らしていると、よくこのようなアイルランド人に遭遇します。
彼らにとってティンホイッスルは「ちゃんとした楽器」ではないのです。

ティンホイッスル(Tin Whistle)は、多くのアイルランド人が一番最初に手にする楽器です。
まずはティンホイッスルからスタートし、やがて曲のレパートリーができていき、音楽の構成も理解できるようになると、フルートやフィドルといった楽器に移行していくのが一般的です。
そういう意味では、前述の女性はこの王道を行っていると言えます。

また、子どもの頃に音楽をはじめる場合が多いので、「ティンホイッスルは子どもが吹くもの」というイメージもあります。

ティンホイッスルは楽器じゃない?
[必須科目ではありませんが、アイルランドではティンホイッスルを使った伝統音楽のクラスがある小学校もあります]

ティンホイッスルは、ほかの楽器に比べ桁違いに安価であることも、この楽器の評価を低くしているようです。

初心者が手にする楽器。
子どもが吹いている楽器。
安い楽器。

このような理由から、無意識のうちにティンホイッスルをまっとうな楽器として認識していないアイルランド人が多いように思います。

一方では、アイルランド音楽の世界にはホイッスルの名人がたくさんいます。
この世界に住む者ならば、ティンホイッスルがこの上なく美しい音色を奏でることのできる立派な楽器であり、それは説明をするまでもなく誰もが知るところです。
しかし、伝統音楽に詳しくないごく一般的なアイルランド人たちにとっては、残念ながらこのイメージがいつまでもつきまといます。

ホイッスルケース (12)
[カスティーズの店内でも販売中の毛糸でできたホイッスルケース

そんな、ちょっとかわいそうな楽器ティンホイッスル。このイメージを払拭できる日はやって来るのでしょうか。


望月えりか

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「ヴァイオリンとフィドルの違い」を読む 「フィドラーは無教養?」編

2013.11.13 20:17|フィドル
数回にわたってお送りしている、『「ヴァイオリンとフィドルの違い」を読む』。
最終回の今日は、『「無教養?」編』と題してみました。

「ヴァイオリンは歌う、しかしフィドルは踊る」という文句がありますが、「酒とフィドラー」にも見られるように、フィドルはヴァイオリンに比べると「楽しいもの」、「愉快なもの」、「ダンスをしながら(または酒を飲みながら)弾くもの」といったイメージがつきまとうようです。

フィドルは何やら楽しげである、というこのイメージは、はたから見て、もしくはかしこまった雰囲気のクラシックヴァイオリンと比較して「楽しげだ」と見える、あくまで聴く者がそう感じる、ということなのかもしれません。
アイルランドのフィドル奏者たちは少なくとも、ニコニコ顔で「楽しげに弾こう!」ということは誰も目指していないですし、むしろアイルランドの音楽はかなり抑制のきいた曲調のものが多いようにさえ思います。

「ヴァイオリンとフィドルの違い」には、以下のような引用文が見えます。

・ ヴァイオリンの上手な人は正しい運指をマスターしている
・ フィドルが上手な人は無茶苦茶の運指で正しく弾ける

・ ヴァイオリニストは楽屋で今日弾く曲を練習している
・ フィドラーは楽屋でみんなと遊んでいる

・ ヴァイオリニストは車を道の真ん中で停める
・ フィドラーは他の車にぶつけてから停まる

・ ヴァイオリニストはヴァイオリンの他はよくわからない
・ フィドラーはフィドルのこともよくわからない


ヴァイオリニストが音楽にひたすら真面目に取り組む一方で、フィドラーは脳天気で無教養、といったところでしょうか。ステレオタイプ化もここまで来ると説得力に欠けはじめ、さすがにこれを鵜呑みにする人はいないはずです。

気になるのは、「フィドルが上手な人は無茶苦茶の運指で正しく弾ける」というもの。
「無茶苦茶な運指」というのがどんな運指なのか分かりませんが、私の知っている限り皆さん正しい運指で弾いています。アイルランド音楽の曲は、どれもヴァイオリンで言われるところの「第一ポジション」でほとんどまかなわれることは事実です。第二ポジションまで行かないと音が出せない曲もあることにはありますが、数は限られます。

また、アイルランド音楽のフィドルについて「適当にアドリブを弾く」、「フィドルは適当に弾いてもそれがかえって味になる」という解釈もあるようですが、「適当に弾く」という表現にやはり違和感を感じます。
楽譜に指示のない演奏を良しとする、多少のアドリブが存在する、ということが「適当に弾く」という表現にすり替えられているのでしょうか。

アイルランド音楽におけるフィドルについては、「無茶苦茶の運指で弾いて良い」とか「適当に弾いてもそれが味になる」といった教え方は、誰一人していないはずです。
これも、クラシックで訓練を積んだ側から見た先入観の一つなのかもしれません。

また、「アイルランドの伝統音楽」というと、「アイルランドのど田舎の農家のおじいさんがやっている音楽」という、これまた限定されたイメージ像を思い浮かべる方も、ひょっとするといらっしゃるかもしれません。
しかし、これもまた払拭されなくてはならないイメージで、今やアイルランド音楽はその人の職業や社会的地位を問わず、老若男女あらゆる人々に幅広く愛され、演奏されている音楽です。
教育の一環として取り入れている学校もあれば、大学教授、弁護士、医師、教師などの仕事に従事するアマチュアのエキスパートが、アイルランドには大勢います。

以上、「ヴァイオリンとフィドル」の引用文から見たアイルランド音楽のフィドルをテーマに記事を書いてみました。アイルランド音楽への誤解が解け、ありのままのアイルランドのミュージシャンたちとフィドル事情を、少しでもお伝えすることができれば幸いです。


望月えりか

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ティンホイッスルの持ち方

2013.10.26 01:09|ティンホイッスル
アイルランド音楽の楽器で、ティンホイッスル(tin whistle)というものがあります。
最も安価で手に入れやすく、アイルランド音楽ではおなじみの楽器です。

「一番簡単」という宣伝文句も聞かれますが、簡単な楽器であるかは私には分かりません。「簡単」、「難しい」という区分けは、楽器においてはないのではないかな、と思います。

ティンホイッスルはペニーホイッスル(penny whistle)と呼ばれることもあると言いますが、私はこの呼び名をアイルランドで聞いたことが一度もありません。また、ティンホイッスルという呼び名よりは単に「ホイッスル」と呼ばれることの方が多いです。(そんなわけで以下、ホイッスルと表記します)

すぐに音が出せるのと価格的な理由から、アイルランドでは主に子どもたちが最初に与えられる楽器という印象が強いです。
私自身も、このホイッスルからアイルランド音楽を始めました。

ティンホイッスル (2)
[いつの間にか増えていく我が家のホイッスルたち]

主流のキーであるD管のホイッスルのほかにもB♭やGといったキーのものもありますが、楽器の詳しい説明はまた別の機会に譲りたいと思います。

さて、今年の9月(新学期)から私たちの子どももホイッスルを習い始めました。

彼らが通っているのは、エニスのカスティーズミュージックショップの2階。ここで、ショップの開業者であるフランシス・カスティー(Frances Custy)が子ども向けのミュージックレッスンを行っているのです。

娘はフィドル、息子はホイッスルですが、娘もピンク色のホイッスルを買い与えられてその手軽さから家でもよく吹いています。
最初は私もホイッスルを出してきて一緒に曲を吹いたり、指使いを教えたりしていたのですが、しばらくするとあるとても興味深いことに気がつきました。

ティンホイッスル (6)

皆さんはこの写真を見て、気づかれますでしょうか。

そう、右手と左手が二人とも逆なのです。

慌てて子どもたちの持ち方を正そうとしても、「こっちの方が吹きやすい」と言って聞きません。
息子がサッカーボールを蹴る際に左足を使う以外では二人とも右利きなので、どういうわけで反対にホイッスルを持ってしまったのか、さっぱり分かりません。

ホイッスル/ピアノ奏者のジェラルディン・コッターのホイッスルの教則本が家にあったので、見てみました。

ティンホイッスル (4)

彼女の本によると「左手が上、右手は下」とあり、それ以上の説明は見つかりませんでした。

さっそく次のカスティーズでのレッスンのあと、フランシスにこの疑問をぶつけてみました。
すると。

「この問題はね、私も最初は疑問に思っていろいろなホイッスル奏者やフルート奏者に尋ねてみたの。でも、その結果みんながみんな『右手でも左手でも、持ちやすいほうで良い』という回答だったのよ」

娘などはジグの曲なども吹けるようになっていたので、今さら強制のしようもありませんし、強制する必要もないということで、今でも二人とも右手が上、左手が下というポジションでホイッスルを吹いています。

一方で、長年ホイッスルを吹いていた自分がこの可能性に全く気づいていなかったという事実にも、我ながら驚きました。
しかしよく考えてみると、日本人の多くは学校教育の中でリコーダーを吹いた経験があります。リコーダーで左利きの人は左右の手が逆になるものなのか、私には分かりませんが、少なくとも小学校で習ったリコーダーでは右利き、左利きにかかわらず左手が上、右手が下のポジションで吹いていたように思います。
日本にいた頃にこの問題に気がつかなかったのは、そんな背景があるからかもしれません。

しかし、アイルランドでは無論リコーダー教育もなく、ホイッスルを吹く子どもたちは場合によっては小学生以下だったりもして、思い思いの持ち方でホイッスルを吹きはじめます。
ホイッスルの講師によっては「左手が上、右手が下」のポジションを推奨しているのかもしれませんが、必ずしもホイッスルのレッスンに通っている人ばかりではありません。

また、アイルランドを代表するホイッスル奏者であるメアリー・バーギン(Mary Bergin)は、このいわゆる左利きの持ち方でホイッスルを演奏することで知られています。

メアリー・バーギン
[右手が上、左手が下のポジションのメアリー・バーギン]

また、前述のジェラルディン・コッターの教則本に使われている写真や挿絵をよく見ると、左利きのホイッスル奏者が少なくないということにも、初めて気がつきました。

ホイッスルは持ちやすい方法で持つ。

これもまた、「アイルランド音楽の懐の深さなのだろうか」と考えたりします。

また、しばらくしてから新たな事実に思い至りました。
子どもたちが、もしも将来フルートを吹くことになったら。自然な流れだと、同じ指使いのまま笛を横に構えるので、左利きのフルート奏者になるのではないでしょうか。

考えてみると、アイルランドには左利きのフルート奏者が非常に多いです。どうしてこんなに多いのだろうと思っていましたが、ひょっとするとこのように最初に手にしたホイッスルの手の構え方が関係しているのでしょうか。
真相は、私には分かりません。


望月えりか

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「ヴァイオリンとフィドルの違い」を読む 「楽器の価値」編

2013.10.08 18:44|フィドル
皆さんは「ヴァイオリンとフィドルの違い」とか「ヴァイオリニストとフィドラーの違い」というタイトルの引用文、またこれに類する文章を読んだことがありますか?
私は最近になって初めてこのようなものを読みました。ブラックバードミュージックの大さんが「えりかさん、こんなのがあるんですよ」と教えてくれていなかったら、ずっと気づかないままだったかもしれません。

ヴァイオリンとフィドルという、楽器自体はまったく同じものがなぜ音楽によって呼び方だけ変わるのか。
また、日本人にとってはフィドルよりもヴァイオリンの方になじみがある故に、これらの引用文は基本的には「フィドルとは何か」を説明しているようにも受け取れます。
いずれにせよ、一般の方々にとっては一見理解に苦しむこの疑問に、分かりやすく答えようという理由で生まれたものなのかな、と思います。

これらの引用は出どころが不明のようですが、いずれもジョーク調の切り口で書かれているのが特徴で、故に話題性があります。

「あくまでこうした傾向にある」と記されている一方で、「かなり的を得ている」「納得できる」といった解釈もあるようです。
完全ななジョークであれば笑い飛ばせるのですが、中にはあまりに極端で誤解を招きかねない例もあり、驚きました。
これがもとで、アイルランド音楽におけるフィドルという楽器が多少なりともイメージ化されているとすれば、アイルランドのフィドル奏者たちに対して、なんだか申し訳ない気がするほどです。

キャッチ―で面白いものは人の目にもとまりやすく、影響力も大きいです。しかしながら、こうしたものから固定観念やステレオタイプが生まれてしまうのも事実ではないでしょうか。
ステレオタイプという名の色眼鏡は、真実を曇りなき眼で見つめようとする際の大きな障害となります。

「たかがジョークなんだから・・」とは思いつつ、これを検証してみることでアイルランド音楽におけるフィドル事情が見えるのではないかな、と思いました。

「ヴァイオリンとフィドルの違い」は長い引用文なので、数回に区切って書いていきたいと思います。
初回の今日は、この中に見える「楽器の価値」に着眼します。

ヴァイオリニストは自分の演奏の不出来を楽器のせいにする
フィドラーは楽器のせいにできるほどいい楽器を持っていない


表板が光ってきれいなのがヴァイオリン
松脂の粉が山のようになっているのがフィドル

また、「フィドルにビールをこぼしても誰も泣くものはいない」というフィドルに関する格言(?)もあるようです。

つまり、「高価なヴァイオリンに対してフィドルは安物」、「フィドルは安物なので、扱い方もそれなり」ということのようです。

では、実際アイルランドのフィドル奏者たちはこの通りなのでしょうか。

昔のアイルランドのフィドル奏者たちは、現実的に高価で品質の良いフィドルを手にすることができないケースが多かったようです。そのため、アイルランド音楽の世界では伝説的なフィドル奏者でも「こんなにひどいフィドルを弾いていたの?!」とびっくりする場合があります。

かと言って、現代のアイルランドのフィドル奏者たちが自分の弾くフィドルにはまったく無頓着で、中国製の量産フィドルで大満足している、ということでは無論ありません。
それどころか、フルートやコンサーティーナなどほかの楽器と同様に皆さん「あれでもない、これでもない」と楽器には非常にシビアです。

しかしながら楽器の価格帯の話になると、ヴァイオリン奏者が楽器に対して何百万、時にはそれ以上の投資をするのに対し、アイルランドのフィドル奏者たちが数万円~数十万円の楽器を弾いている場合が多いのも事実です。もちろん、中にはクラシックヴァイオリニスト並みの投資をするフィドル奏者たちもいるはずですし、この点に関しては人それぞれではないでしょうか。

楽器の扱いについては、これにほぼ比例していると言っていいかもしれません。つまり、とても高価なヴァイオリンに比べると、ケアの度合いは確かに低いかもしれません。事実、アルランドのフィドル奏者の中には、それこそ松やにの粉で真っ白になったまま、埃っぽいままのフィドルを弾いている場合が多々ありますし、時にはそうした表面上の問題だけでなく、楽器自体に支障があるのに弾き続けているようなこともまれにあるようです。
しかしこれにも個人差があって、特にパフォーマンスをするようなレベルのフィドル奏者たちはほぼ間違いなく、丁寧に楽器の掃除や行き届いたメンテナンスをしているはずです。

ゴールウェイのフィドル奏者の友人がいます。アルバムも出しているし、海外にツアーに行ったりもするような腕の持ち主ですが、この人のフィドル自体は「そんなに安物でいいの?」と余計な心配をしてしまうほどの質のフィドルです。
本人もそれは百も承知なのですが、「私はこのフィドルに愛着があるし、サウンドも愛している」と言います。

これこそが、アイルランド音楽における楽器、殊更フィドルに関しての基本中の基本のように思います。
つまり

「自分が好きな楽器であること」

例えそれが中国製の安物でも、自分がいいと思えばそれで良いのです。

アイルランドのフィドル奏者、マーティン・ヘイズがアメリカで本物のストラディヴァリを試し弾きする機会があったそうですが、「好きになれなかった」という話も聞いたことがあります。
このように、逆にどんなに高価な楽器であっても、自分が気に入らなければ何の価値もありません。
これは、クラシックの世界でも、またどんな音楽の世界でも当然のことではないでしょうか。

その楽器にどれほどの価値があろうとも、フィドル奏者にとって楽器は宝です。例えそれが悪質なフィドルだったとしても、ビールをこぼされて嘆かないフィドル奏者はいないのではないかと思います。


望月えりか

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